海を渡る日本文学PART1ー川端康成「雪国」日英読み比べ

英語

海を渡る日本文学シリーズ

日本は翻訳大国らしい。古今東西あらゆる国と時代の作品を日本語で読めるとは、実は幸せな事。とはいえ翻訳にも色々。スラスラ読める訳もあれば、違和感を感じて読みづらい訳もある。

幕末に適塾を開いた緒方洪庵(1810〜63年)は、”唯読むのみにして原書をば1枚たりとも翻訳するを許さず”と、翻訳を読ませずひたすら原書を読むことを指導したそうです。

翻訳が溢れる世の中で、原書を読もうという方は、よほど研究熱心だと言わねばなりません。三島由紀夫もその1人でしょうか。留学経験があるわけでもないのに、彼の話す英語は非常に流暢、内容もかなり難しい(気になる方は「三島由紀夫」「英語」などでYouTube検索👍)。

そんな彼が著書「文章読本」の中で、日本と海外の翻訳の違いに次にように触れています。

日本では外国文学を勉強すると言う学生根性がある。なじみのない言葉は注釈によって確かめる。外国の出版社は小説本の注釈を嫌う。注釈なしになんとかわからせることが、小説の読者に対する礼儀だと言う。何の注釈もなしに読者に周知徹底させることが、翻訳者の手腕の内と考えられている。

私たちは注釈付きで読むことに何の違和感も感じませんが、外国文学にはその注釈がないらしい。これは面白そう、そう思ったのが今回の出発点。

一体注釈もなしに、これぞ日本語という表現はどのように訳されているのか。確かめるために、日本初ノーベル文学賞、川端康成の代表作「雪国」を、名訳Edward G. SeidenstickerSnow Country」とじっくり読み比べしてみました。

今回「雪国」の読み比べは2本の記事にしています。
・PART1、英語に興味がある方向け…日英読み比べ(本記事)
・PART2、内容や読後の感想に興味がある方向け(次の記事)

Seidenstickerについて触れている記事はこちら

作品紹介

読み比べに入る前に少し作品を紹介しておきましょう。ご存知の方はすっ飛ばし推奨。

主な登場人物は4人

島村ー駒子という芸者に会いに、トンネルを抜けて雪深い山間の温泉へ
駒子ー温泉の芸者、島村が好き
葉子ー悲しいくらい美しい声の持ち主、島村は葉子の美しさに魅かれる
行男ー葉子がまめまめしく看病する男性、駒子の幼馴染

極端に単純化すれば、親の金で遊んで暮らしている家庭持ちの男(島村)が、温泉宿の芸者(駒子)と男女関係にあり、さらに偶然電車で見かけた美しい声の持ち主(葉子)にも惹かれるお話。

これだけ読めば◯◯みたいな設定ですが、そこは川端マジック。婉曲的な文章と雪国の情景が相まって、いやらしさは一切なくなり、むしろ美しいとさえ感じさせる。

この文章力こそが川端文学だと思いますが、繊細な描写に加えて、全てが描かれていないために、作者が残した空白は読者自身で埋めるしかない仕上がり方。余白が好きな人は好きでしょうが、嫌いな人にはたまらなく難解な作品だろうと思います。

そのためか、日本人が日本語で読んでも「雪国」は難しいというレビューを少なからず見かけます。確かなストーリーをもつ小説や、壮大なテーマがある小説と比べると、表面的にはなぜ本作が、ノーベル文学賞対象になり得たのかという疑問さえ抱かせるレベルの緻密な繊細さ。

ノーベル賞受賞理由は、“日本人の心の精髄を優れた感受性で表現する、その物語の巧みさ“ということになっています。「雪国」に限って受賞した訳ではありませんが、時代の変遷でしょうか。“優れた感受性”に共感する心が、段々と遠ざかりつつあるのかもしれません。

では自分は、川端文学の余白・余韻を味わいつくせたと言えるのか。

本作のテーマは?ラストシーンの意味は?島村の聞き間違いや駒子の「あんた私を笑ってるわね」の意味は?これらは初読後に持った疑問。明らかに消化しきれていません。これらはPART2で扱いますが、読書会のテーマになったのなら、識者の意見を大いに聞いてみたい所です。

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いざ読み比べ

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
The train came out of the long tunnel into the snow country.

有名な冒頭はほぼ直訳。英語になってみると、なぜ冒頭部分が日本でこれほど有名なのか不思議なくらい普通の文章に思えます。日本語の主語が「ない(第三者あるいは主人公目線)」のに対し、英語では「電車(Train)」が主語。なんとなく母国語の深みを感じてしまいました。

また本作にはいくつか繰り返し出てくる表現があります。その一つが、葉子の”悲しいほど美しい声”、という特徴的な表現。以下のように訳されています。

It was such a beautiful voice that it struck one as sad.
It was that clear voice, so beautiful that it was almost sad.

全体としてはこれらのようにほぼ直訳。一方で、そのまま訳されない表現もいくつかありました。その違いを見ていきたいと思います。

実際読み比べて分かった事は、日本語でもなんとなく感覚で読んでいただけで、真に言葉の意味を理解していた訳でもなかったのだなと、改めて思い知りしました。

(性格診断を通じて、最適な本を選定)

日本語と英訳の違い5選

自身が感じた主な違いは5つ
①人物が明確
②固有名詞は全て訳されない
③重複はバッサリカット
④順番の入れ替え
⑤違和感のない文章にするための配慮

(これらはSeidensticker訳を元にしたもの、n=1で抽出した違いであり、訳者によって異なる事もあるだろうと思います)

①人物が明確

日本語の省略文化と川端康成の表現スタイルが重なって、これは誰の話?と所々悩まされる箇所があったりしましたが、英語ではある程度分かりやすくなっています。

英語には必ず主語があるからですが、読者が途中で迷わないように、訳者が補足したおかげもあるでしょうか。「誰が」「誰に」などの人物が大変分かりやすかったです。

途中で迷わないというのは、英訳の利点のようにも聞こえますが、川端康成がわざと後から後から分かってくるという仕掛けをしている所でもあり、途中悶々としながらも読み進めて、段々と分かってくるという妙味を体験できるのは日本語読者だけです。

例えば、駒子が行男との関係を説明する次の一幕。

いいなずけは嘘よ。そう思ってる人が多いらしいわ。別に誰のために芸者になったってわけじゃないけれど、するだけの事はしなければいけないわ。

英訳では青マーカー部(後々まで話が進まないと分からない背景)が追加。

But it’s not true. I was never engaged to him. People seem to think I was, though. It wasn’t to help anyone in particular that I became a geisha. But I owe a great deal to his mother, and I had to do what I could.

そしてこの会話を比べて気づくことが他にもありました。日本語は、省略されて分かりにくい所があるかもしれませんが、会話の主が女性であることはすぐ分かる。会話が続く時など、今どっちが喋っている?という疑問は、性別差のない英語では感じても、日本語では感じません。

最近では男女の言葉遣いにほとんど差はなくなったように思います。小説からもほとんど消えているでしょうか。昭和以前の作品で女言葉を読むと、何だか不思議に心地良くなります。

(隙間時間で効率的にインプット)

②固有名詞は全て訳されない

日本語の固有名詞訳は次の3パターン。
1)日本語そのまま
2)英訳があてられる
3)削除

1)日本語そのまま
geisha、kimono、samisenやchijimi*はそのまま登場。外国作品には注がないと、冒頭で三島の指摘を紹介したように、これらには何の注もありませんでした。作中唯一の注はkotatsu。

*chijimi=縮、縮織の略

2)英訳があてられる
kaya grass(萱)、paper panel(障子)、paper-covered windows(窓障子)、traditional straw ropes(注連縄)、sandals and stockings (下駄と足袋)、headed rice(稲穂)、eight-mat room(八畳の畳)、candy shop(駄菓子の店) など

3)削除(削除された日本語はマーカー部)
訳者のセンスによって分けられるのでしょうか。訳されなかった例をいくつかご紹介。

柾目のみごとなだった。
the grain of the wood* was fine and straight.

*grain of the wood、木目・柾目

炬燵の上に嵩張った風呂敷包を開いてみると、普通の稽古本の外に、杵屋弥七の文化三味線譜が20冊ばかり入っていたので
She took up a bulky bundle and undid it on the kotatsu. Inside were an ordinary book of lyrics and some 20 scores. 

この秋、譜で稽古したのね。
勧進帳であった
I’ve been practicing this one since last fall.

またたびの実の漬物やなめこの缶詰など、時間潰しに土産物を買っても、まだ20分も余っているので
Even when he had finished buying presents to take back to Tokyo, he had some 20 minutes to kill.

元禄袖の派手なめりんすの袷に黒襟のかかった寝間着で伊達巻をしめていた。
She had on a bold informal kimono with a narrow undress obi, and under it a nightgown.

最後の例は、固有名詞が一般的な名詞に変更されたという方が的確かもしれません。そういう例をもう一つ。

火燵蒲団はそのままに、つまり掛蒲団がそれと重なり、敷蒲団の裾が掘火燵の縁へ届くように、寝床が1つ敷いてあるのだが
Bedding had been laid out with the foot of the mattress inside the kotatsu,

このように消えたり変更されたりする固有名詞がある一方で、丁寧に説明される言葉もありました。下は“後れ毛一つなく”の訳。
swept up into a high Japanese-style coiffure* with not hair out of place

*coiffure [kwɑfjúr]、髪型、結い方

こうして並べてみると、削除されるされないは、映像としてイメージできるかどうかのようにも思われます。一般的な英単語でイメージがつくのであれば、装飾的な固有名詞は省かれてしまう。元禄袖や伊達巻など、日本語でもイメージがつかない現代人には、削除された英訳とも大差ないのかもしれませんが・・。

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③重複はバッサリカット

読んでいると、前に出てきた表現の繰り返しと分かる箇所が、再度出てくることがあります。日本語はもちろん作者の原文ままのため、いくら重複であるとはいえ、削除されたりしませんが、英訳となるとバッサリカットされるようです。

例えば次の文。以前の繰り返しだったためか、黄マーカー部がカット。

彼女の体の魅力そっくりであった。下り気味の眉の下に、目尻が上りも下りもせず、わざと真っ直ぐ描いたような眼は、今は濡れ輝いて、幼げだった。

Their charm was exactly like the charm of her body itself. Her eyes, moist and shining, made her look like a very young girl.

さらに大胆にカットされた部分はこちら。昔こういうことがあったという島村の回想シーンなど、ほぼ1ページ分が全カット。

やや長いですが原文を引用しましょう(黄マーカーは英文にはありません)。

島村は忘れていたわけではない。

「お師匠さんがね、息子さんと私といっしょになればいいと、思った時があったかもしれないの。心のなかだけのことで、口には1度も出しゃしませんけれどね。そういうお師匠さんの心のうちは、息子さんも私も薄々知ってたの。だけど、2人は別に何でもなかった。別れ別れに暮らして来たのよ。東京へ売られて行く時、あの人がたった1人見送ってくれた。」

駒子がそう言ったのを覚えている。
その男が危篤だというのに、彼女は島村の所へ泊って、

「私の好きなようにするのを、死んで行く人がどうして止められるの?」と、身を投げ出すように言ったこともあった。

まして、駒子がちょうど島村を駅へ見送っていた時に、病人の様子が変ったと、葉子が迎えに来たにかかわらず、駒子は断じて帰らなかったために、死目にも会えなかったらしいということもあったので、尚更島村はその行男と言う男が心に残っていた。

これだけの原文が、英訳では次の2文のみ。

Shimamura had not forgotten. Indeed, the memory gave the man Yukio a certain weight in his thoughts.

1文1文ねちっこく読み比べをしていたので、バッサリカットされた箇所に当たると、今どこを読んでいる?とかなり迷ってしまいました。

今後読み比べをしてみようという方は、英訳では重複は省略されている可能性があることは覚えておいて損はないかもしれません。

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④順番の入れ替え

日本語でA→B→C→Dの順であったものが、英語ではA→D→B→Cになったりします。

単語が入れ替えされるだけではなく、1つの固まりとしてまとまりを持たせるために、文章単位でも入れ替えは行われていました。そうした方が、自然に意味がつながり、読みやすくなるのでしょう。

非常に単純で分かりやすい例がこちら。

窓の直ぐ下の畑には、大根、薩摩芋、葱、里芋など、
Directly below the window were rows of taro and sweet potatoes, onions and radishes.

英訳では里芋、薩摩芋、葱、大根の順。これであれば、里芋taro potatoと薩摩芋sweet potatoとpotatoを2回言う必要がなく、リズムにも乗れるのだと思いました。

こちらは、入れ替えというよりは日本語と英語の語順による違いかもしれませんが、名訳だなぁと思うので合わせて紹介しておきます。

若葉の匂い強い裏山を見上げると、それに誘われるように荒っぽく登っていった。
He was seduced by the mountain, strong with the smell of new leaves. He started climbing roughly up it. 

複雑な入れ替えになるとこちら。一瞬削除されたか?と思いましたが、よく読めばちゃんと訳されていました。順番が分かりやすいよう番号を振っております。

女は両腕を閂(かんぬき)のように組んでもとめられたものの上をおさえたが、①
酔いしびれて力が入らないのか、②
「なんだ、こんなもの。③
 畜生。畜生。だるいよ。こんなもの。」と、④
いきなり自分の肘にかぶりついた。⑤

She folded her arms like a bar over the breast he was asking for. ①
What’s the matter with you. ③
She bit savagely* at her arm, as though angered by its refusal to serve her. ⑤②
Damn you, damn you, lazy, useless. What’s the matter with you. ④

*bit savagely、乱暴に噛んだ=かぶりついた

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⑤違和感のない文章にするための配慮

④の入れ替えも違和感のない文章にするための配慮の一つではありますが、“切って貼って、足したり引いたり”しながら、不自然のないよううまく調整されているのが⑤です。単純な入れ替えだけではなく、訳者により追加された文(青マーカー)をいくつか見てみましょう。

もちろん勝手に追加されているわけではなく、読者を配慮したものです。

例1
女は無論夫婦面でついて来た。島村は黙って後も見ずに温泉へ飛び込んだ。安心して高笑いがこみ上げて来るので、湯口に口をあてて荒っぽく嗽をした。

The woman followed as if they were married. Shimamura plunged into the bath without looking back at her. He felt a high laugh mount to his lips now that he knew she was with him. He put his face to the hot-water tap and noisily rinsed his mouth.

島村はなぜ安心したのでしょうか?理由は説明されておらず、日本語読者は前の文脈から想像するしかありません。その分かりにくさを訳者が補足したのでしょう。

訳者の補足では「女(駒子)が一緒だったので」安心したとなっています。これより前の文脈では、島村と駒子が連れ立って温泉へ行こうとする所で、別の客と遭遇する場面が描かれていました。私が想像したのは「2人でいる所を見られた客と別れて、駒子と2人きりになったので」、見られた恥ずかしさから解放されて安心した、と読んでいました。

英訳の補足では、私の感じたニュアンスではなく「別の客に見られたため、駒子は一緒に温泉へ入ってこないと思いきや、一緒に入ってきたので」という感じに読めました。

みなさんはどう読みましたか?

例2
駒子は低い石垣のなかへ入った。
Komako went in through an opening in a low stone wall.

石垣はstone wall。石垣を知らない文化圏の人にすれば、なぜwall(壁)の中に入れるのかと、不思議に思うかもしれません。そこへopeningという1語を追加することで、注釈なしでも違和感なく読める工夫がされています。こういう事が、三島の言う“訳者の手腕”なのでしょう。

似たような補足がある例をもう一つ。青マーカー部を追加して、障子の説明をしています。ここでも順序入れ替えが行われているのが分かります。

襖はみな明け放して、家の古道具などをあちらの部屋に積み重ね、煤けた障子のなかに駒子の寝床を1つ小さく敷き、壁に座敷着のかかっているのなどは、

The partitions between the rooms had been taken down, and Komako’s bedding lay small and solitary inside the sliding doors, their paper panels yellowed with age, that separated the rooms from the skirting corridor. Old furniture and tools, evidently the property of the family she lived with, were piled in the far from. Party kimonos hung from pegs* along the wall. 

*peg、くい

例3
「よく時計の時間が分かるね。」
「はい、ガラスが取ってございますから。」

You’re very clever to be able to tell the time.
It has no glass, and I can feel the hands.

例4
汽車が動くと直ぐ待合室のガラスが光って、駒子の顔はその光の中にぽっと燃え浮かぶかと見る間に消えてしまったが、

The window of the waiting-room was clear for an instant as the train started to move. Komako’s face glowed forth, and as quickly disappeared. 

“ガラスが光って”という表現が、英訳では“窓がキレイ”+“(だから反射して)顔が光る”という構成になっています。なるほど物事には順序がある。

例5
しかし島村は縮を着る真夏にも縮を織る真冬にも、この温泉場に来たことがないので、駒子に縮の話をしてみる折はなかった。

Since Shimamura had never come to the snow country in midsummer, when he wore Chijimi, or in the snowy season, when it was woven, he had never had occasion to talk of it to Komako; and she hardly seemed the person to ask about the fate of and old fork art.

例1に見られるのと同じように、訳者による理由の補足がされています。

違和感のない文章にするためには、他にも主語が変更されていたり、日本語では1語を英語で2語にしたり、日本語の2語を英語で1語にまとめたりなどされていて、比較すると面白いです。

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川端康成の日本語を英語で表現すると

ここまで日本語と英訳の違いを見てきました。ここからは、川端康成が紡いだ言葉や、日本語らしい日本語と思える表現をいくつか拾い、英語でどのように表現されているのかを見てみましょう。

窓はただ闇
the window was dark.

黄色が白くなってゆくにつれて、遥かだった
their yellow turning to white in the distance.

しいんと静けさが鳴っていた
the stillness seemed to be singing quietly.

雪の鳴るような静けさが身にしみて
he felt a quite like the voice of the rain flow over him.

英訳では雪を雨に変更。雪が降っても音がしないからでしょうか。“雪の鳴るような静けさ”とは?雪の降る音さえ聞こえるほど静かとも取れるし、何となく“シンシンシンシン”と、雪が降るオノマトペが聞こえてくる気もしますね。

それだけの厚さがありそうないぶした黒で、星空の裾に重みを垂れていた
cast their heaviness at the skirt of the starry sky in the blackness grave* and somber* enough to communicate their mass.

*grave、本文では形容詞で重々しいの意、名詞でお墓
*somber、陰鬱な

ニュアンスの難しい日本語には、grave and somberのように類似の意味を持つ英単語を2つ重ねています。訳とは、日本語を英語へ直すというより、映像や感覚を伝達する作業なのかもしれません。

空と山とは調和などしていない
the harmony between sky and mountains was lost.

その人の最後を見送らんと言う法があるか。その人の命の1番終わりのページに、君を書きに行くんだ
do you think it’s right not to say good-by to the man you yourself said was on the very first page of the very first volume of your diary? this is the very last page of his.

頂上は面白く切り刻んだようで、そこからゆるやかに美しい斜線が遠い裾まで伸びている山の端に月が色づいた
a mountain, cut at the top in curious notches* and spires*, fell off in a graceful sweep to the far skirts. over it the moon was rising.

*notch、切れ込み、刻み目
*spire、建築用語で尖塔、本文では山の頂

実に秋であった
there was autumn in the little scene.

山に心が誘われていく
he found himself drawn again to the mountains.

秋空を飛んでいる透明な儚さのようであった
rather like the fleeting translucence* that moved across the autumn sky.

*translucence、半透明

どこか孤独の趣きは、反って風情を艶かすばかり
but that indefinable air of loneliness only made her the more seductive.

島村の心の殻を空しく叩いて消えてゆく
it struck emptily at the shell of Shimamura’s heart, and fell away in silence.

秋の夜更けらしい静まり
the very embodiment* of quiet in the late autumn night.

*embodiment、直訳で具現化、具象化

侘しいうちにも逞しい力が籠っていた
there was drab* poverty in the scene, and yet under it there lay an urgent, powerful vitality.

*drab、くすんだ、殺風景な

こうしていくつか例をみていると、かなり忠実に訳されているのが分かります。本作には童歌も登場するのですが、以下の通りほぼ直訳。これ以外にどうしようもないのでしょうが、何となく、英語になると味気はないですね。

蝶々とんぼやきりぎりす
お山でさえずる
松虫鈴虫くつわ虫
the butterfly, the dragonfly, the cricket.
the pine cricket, bell cricket, horse cricket
are singing in the hills.

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あの日本語を英語で表現すると

続いて、日常使う日本語でも英語がパッと思いつかないような表現をいくつか選んでみました。ここは単純に、英語の勉強をしたいという思い。

思いの外素直に話した
she began telling of her past in a surprisingly matter-of-fact way.

Shimamura was a little unsure of himself.(手持ち無沙汰)
she suddenly remarked, with forced lightness.(つとめて手軽に)
he heard uneven steps(みだれた足音) coming down the long hall. 
Komako purposely read the words in a monotone,(棒読み)

われながらびっくりした
he had been caught quite off guard.

贅沢な気持ちで生きてる人
people who can do exactly as they want and think of no one else.

しらじらしいわ
I’d only be pretending.

なみなみと冷酒をついで
glasses filled to the brim* with sake.

*brim、縁、へり

御縁でもってまたいっしょになろう
maybe we’ll meet again sometime.

術なげに声をつまらせた
her voice was almost desperate.

強情はらないでさらりと水に流せ
don’t be stubborn. forgive and forget.

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