【BookTube】1000円札の顔だった夏目漱石、だてにお金になってない

おすすめ

夏目漱石と言えば

夏目漱石と言って思い浮かぶのは?

教科書の人!こころ・坊ちゃん・吾輩は猫である、など普段本を読まない人でもスラスラ著作が出てくるのではないだろうか(と信じたい)。

あるいは、英文学科であった漱石が「I Love You」を「月が綺麗ですね」とでも訳してておきなさい、と言ったエピソードだろうか。

有名譚は色々あるが、自分的にはまず1000円札と言いたい(笑)。

お札のイメージ

2023年現在の1000円札は野口英世だが、キャッシュレス生活になって久しいため、紙のお札の1000円札といえば、いまだ夏目漱石のイメージがある。

野口英世が1000円札のイメージとして定着しないまま、来年度に発行される新札、北里柴三郎へ移行される。そして北里柴三郎も、お札の人というだけで、1000円札のイメージとして定着する事はないだろうと思っている。

自分の中では、今でも1000円札の人である夏目漱石。

お札になった功績はといえば、名著を残した作家・文化人としてだが、国立印刷局の選定基準としては次の2つが掲載されている(https://www.npb.go.jp/ja/intro/faq/index.html)。

  • 日本国民が世界に誇れる人物で、教科書に載っているなど、一般によく知られていること。
  • 偽造防止の目的から、なるべく精密な人物像の写真や絵画を入手できる人物であること。

歴代のお札になった人物は、実はたった17名(2024年の刷新で20名)。たくさんいそうなイメージがあるので意外に少ない印象だ。同じ人物が何度か印刷されていたり、2千円札の紫式部も国立印刷局HPでは、この17名には含まれていない(2千円札裏面は源氏絵巻と紫式部)。

                 出典:国立印刷局

ご覧の通り、この中で作家として選ばれたのは夏目漱石と樋口一葉の2名だけ。まさに作家の中の作家。日本人として改めて、世界に誇る読んでおきたい作家なのだ。

ここが好き

夏目漱石についてはここで敢えて取り上げなくても、詳しいサイトはいくらである。概要はそちらへ譲る。数ある作家の中でもいかに重要人物であるかを改めて認識できたところで、ここでは自分が好きなポイントを述べるに留めたい。

先生(以後、尊敬する夏目漱石をここではそう呼ぶ)による小説の定義はこの2通りである。

・筋の推移で人の興味を牽く小説
・筋を問題にせず1つの事物の周囲に躊躇低徊することによって、人の興味を誘う小説

後者には俳味・禅味が帯びていると言った。
気分にもよるが、高評価をつける自分好みは後者が多い。

小説の定義も、先生の定義というだけであってこの通りだけではない。ちなみに文豪・三島由紀夫が小説と呼ぶのは次のような物。

・現実化する根源的な力(長たらしい抒述から生まれるでなく、1行に圧縮されていれば充分)
・小説に告白をしか求めない人は、言語表現が人に強いる内的体験と言うものを軽視している
・言語表現力の一種魔的な強さ、その凝縮力、平たく言えば、文章の力

以上は柳田國男「遠野物語」に三島が寄せている秀逸な解説。

それぞれの価値観が表れていて、どちらも頷けるのだが、両者の定義に共通するのは「言葉の力」ではないだろうか。はっとする事(気づき・発見)、腹落ちする事(納得)、消化するのに頭をウンウン唸らせる事(概念の理解)。どれも楽しみ方の一つと思う。

頑張って頭をウンウンしても分からない事もある、それも読書体験の一つ。決して無駄にはならない。頭の体操をしたではないか。頭を唸らせるなんて哲学書や難しい本を読んだ時に行う事ではないかと思う。これを小説で味わえる先生の言葉・作品はすごい。

哲学書にストーリーはないが、小説だから少なくとも一つストーリーがある。展開を楽しみながら、頭の体操までできてしまう。ここが好きなんだ。

分からなかった事、というのは意外に記憶に残っている。忘れたと思っていても、脳の何処かには引っかかっていて、ある時をきっかけに、そういえば難しい所が合ったな、と思い出す。

心理学でいうツァイガルニック効果(終えてしまった事柄よりも、途中で挫折してしまったり中断してしまったりした事柄のほうがよく記憶に残る心理現象)に近い。思い出したらまた挑戦してみれば良い。

楽しみ方

紹介するのは代表作ではなく、初期三部作と言われる「三四郎」「それから」「門」の一部。頭がハッキリしている時でないと読みづらい箇所があるため、頭の体操にはもってこい

「三四郎」は熊本の田舎から東京へ出てきた書生、三四郎の恋物語。読んでいて快活になる所や、思わずクスッとなってしまう表現が好きだ。森鴎外が「青年」を書く動機にもなったと言われており、いくつか共通する話題や場面がある。

双方に登場する利己主義や利他主義についての文学談義を読み比べるのも良い。話の筋と関係ないところで、意見を戦わす。筋と関係ないのだから、中身についていけなくてもストーリーの進行には影響がない。

内容はなかなか難しい。一つずつ噛み砕いては消化して、を繰り返す。自分がその場にいてその議論に加われるか、自分の意見を言えるのか、まで発展させて考えてみる。こういう楽しみ方もある。

作家の頭の中はどうなっているのだろうという尊敬の念。1人天使と悪魔。分からない事が少なくとも自分の憧憬に繋がっているとも思う。分からないものへの憧れ。

時々世の中には何を言っているのか珍紛漢紛な人がいる。頭の中が整理できていないから支離滅裂なのか、理路整然としてないのか、なんだかこっちが煙に巻かれたような気分になる事もあるが、それはまた別のお話。

「それから」は並びとしては2作目だが、それぞれ独立した話なので、単独でも読める。働かずに暮らす30過ぎの遊民が、かつては友達に譲った意中の人を略奪するに至るお話、そしてそれから。

内容がドロドロしている部分もあるが、自分が注目したいのはそこではない。先にも触れたように、言葉を楽しむ、先生の頭の中を覗き見できる感覚が面白い。鋭い洞察はもちろん、自分が好きなのは、腹の座った会話

齋藤孝氏によると、腰胎(こしはら)は日本の文化の核であると言う。

“武道、茶道、華道、能、歌舞伎などの日本の芸道は、臍下丹田(せいかたんでん)と言われる臍の下を中心にして精神を落ち着かせることを重じる“・・「牛のようにずんずん進め」より抜粋

腹が座った会話ができるのも、腰胎文化からくるものだろうか。会話に一種の覚悟があって、読んでいて気持ちが良い。

上の著作は、夏目漱石の魅力が詰まった、勇気をもらえる1冊だと思う。漱石の概要を知りたい人はこちらを、教科書以来になっている人は、改めてぜひ著作の方を読み砕いてみて欲しい。

BookTube〜好きな本ベスト10〜

ここからはいつものBookTube。我らが日本代表・夏目漱石を好きな作品に上げてくれた人がいる。夏目漱石は、海外でも多く翻訳が出ている1人。そんな代表作を読んでくれたのだろうと思う。

Jenny Mustardさん、The Top 10 Books Of All Time! (an extreeemely essential reading list)より

1.
こころ、夏目漱石
“Kokoro” by Natsume Soseki


レシタティフ(短編)、トニ・モリスン
“Recitatif” by Toni Morrison
*短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 Ⅲ-05)に収録

3. 
未邦訳、アンナ・メトカルフェ
“Chrysalis” by Anna Metcalfe

4. 
友達、シーグリッド・ヌーネス
“The Friend” by Sigrid Nunez

5. 
ダロウェイ夫人、ヴァージニア・ウルフ
“Mrs. Dalloway” by Virginia Woolf

6.
アウトライン(三部作)、レイチェル・カスク
「愛し続けられない人々」「ロンドンの片隅で、一人の作家が」「二つの旅 いくつもの人生」
“Outline”(Trilogy) by Rachel Cusk

7. 
未邦訳、ナターシャ・ブラウン
“Assembly” by Natasha Brown

8. 
悲しみよこんにちは、フランソワーズ・サガン
“Bonjour Tristesse” by Françoise Sagan

9. 
未邦訳、ジーン・リース
“Good Morning, Midnight” by Jean Rhys
*「20世紀イギリス短篇選」に一部作品収録

10. 
巨匠とマルガリータ、ミハイル・ブルガーコフ
“The Master and Margarita” by Mikhail Bulgakov

タイトルとURLをコピーしました