強く賢く美しい、面白すぎる植物の世界を紹介する本

わたしの注目作

先日行ってきた「夢の島熱帯植物館」で売っていたヒノキチップがいい香りをしている。

見た目にも美しいヒノキは、最高建材として神社やお寺に使われています。日本最古の記紀「古事記」には、杉と楠を船材に、ヒノキを宮殿作りに、槙を棺材に使いましょうとあります。

木の特性によって用途を使い分けたのでしょう。すっくとまっすぐ力強い立ち姿になんとも言えぬ高級感がありますね。

世界最古の木造建築とえいば世界遺産「法隆寺」。7世紀の建築物が1300年後の現代にもその姿を保つ最大の理由は、ヒノキという木があったから。

世界遺産 文化遺産オンライン

木の魅力を最初に学んだのは、西岡常一「木に学べ」(後述)。植物好きはこの本がきっかけだったように思います。植物の本を読んで自然の賢さを学ぶのは好きなのですが、植物の種類を一向に覚えようという気にならないのは、自分でも不思議ですが。

昨23年NHKの朝ドラ「らんまん」は植物学の父・牧野富太郎の物語でした。それこそあちこちで植物本を見かけましたが、今ではすっかり「源氏物語」にとって代わられてしまいました。

日本は世界有数の森林大国という事をご存知でしたか?

国土面積が狭いのもあるかもしれませんが、森林率が約7割というのは世界でも珍しい事。私たちはちょっと電車で移動すれば、当たり前に山や森を見かけますが、日本だからこその当たり前の景色です。

森林・植物は言うまでもなくかけがえのない大切な存在。皆さんの関心から、自然・植物がとって代わられることがありませんようにという願いも込めて、素敵な植物本を紹介していきます。

魅力的な植物たち

圧倒的おすすめの1冊

「木に学べ」西岡常一

閉店前の八重洲ブックセンター本店(東京駅周辺の改装工事により一旦営業終了)で、知られざる名著として展示されていた本書。木に対する価値観、神社・仏閣を見る目、改めて森の大切さなど、これまでの価値観が大いにアップデートされる本です。

(ココのおすすめをチェックするのが好きでした。28年度の再開が本当に待ち遠しいです)

宮大工・西岡常一さんの視点から、木の貴重さ・強さや日本人が大切にしてきた「自然を制するでなく、自然を活かす」心を教わります。

鉄の耐用年数がわずか100年なのに対し、ヒノキはなんと2000年。法隆寺伽藍の材料は1000年か1300年のヒノキ、こんな長い耐用年数のものはヒノキ以外にはなく、樹齢千年を超えるヒノキを使えばこそ、法隆寺が千年もつのだと語ります。

ところが国内では樹齢450年のヒノキが最長、1000年を超えるヒノキはすでに台湾にしかなく、西岡棟梁が担当した法隆寺昭和の大改装では、日本固有種ヒノキを台湾まで買いに出かけたそうです。

大工に大切なのは木を見る目

「コンピューターではヒノキの寿命なんぞ分からん。カンピューターだから分かる事がある」


建築基準法ができてからは設計通りに建築しなければならない。だから弱い。昔は寸法ではなく、木のクセを見て組んでいた。建築基準法はコンクリートを土台にしなければならず、そうすると木は腐ってしまう(法隆寺では石を置いて、その上に柱を立てる)。

西洋の建築法をただ真似てもダメ。力は釣り合いが崩れると弱い方へ集中する。そのわずかな歪みが全体へ悪さする。なんでも規格に合わせるのではなく、個性を見つけて伸ばしていく、これが強さのもとになる。

西岡棟梁は、飛鳥の大工は凄かったと言います。法隆寺には創建当時の飛鳥のものから平安、鎌倉、室町、江戸、大正、昭和と各時代の修理の跡が残っているそうですが、構造を見れば、木のクセを見て修理したかどうか、建築物をどう考えていたかが分かるそうです。

「室町以降、構造を忘れた装飾性の高い建築物が多くなってますな。そやから、何回も解体せなならんのですわ」

伝統か効率かと言う議論はさておいて、本書では尊敬すべき飛鳥の技法も紹介されてます。ブルーバックス「古代日本の超技術」(志村史夫著)にもこの種の話及び西岡棟梁も出てきて非常に面白い。

例えば、
法隆寺五重塔の心柱には樹齢2000年のヒノキが使われていますが、東京スカイツリーにも応用された原理であったり、ヤマタノオロチに顔が8つあるのは有名ですが、「古事記」では“体にシダが生い茂り、ヒノキや杉が生えていた“と記述があり、木を背負う所が大変日本神話らしい、など。

元半導体研究者である著者が、最先端の半導体製法と古代技術の類似点を説明した本で、興味深い話がたくさん載っています。「古事記」も大変面白いので未読の方にはおすすめです。

さて、法隆寺へ足を運びたくはなりませんか?

森林ライフを擬似体験する2冊

「ウォールデン 森で生きる」ヘンリー・ソロス

ハーヴァード卒業後28歳の時、町外れにあるウォールデン池のほとりで、材料集めから建築から1人でこなして小屋を建て、一人暮らしを始めた著者。本書には約2年間の森生活が綴られています。

一つの中心から引ける半径の数ほど生き方はある。

大自然でのんびりライフと共に、足るを知るなどの人生哲学も多く含まれます。あなたがもし、忙しい毎日を送るのに疲れたなら、読書で森林ライフを疑似体験するのも良いのではないでしょうか。

以下、自身が好きな言葉です。

余分に富をため込んでも余分なものが買えるだけだ。魂の必需品には、金銭がなければ買えないものなど1つもない。

朝の間にそよ風の吹くまま水面で、ただよっては何時間も過ごした。思えば、無為こそが最高に魅力的で生産的な営みだった頃の事。金銭には縁がなくとも、日当たりの良い時間や夏の日々にかけては裕福だったから、僕は惜しげもなく、財産を使い続けたし、作業場や教壇で、それらの時間を浪費しなかったことを悔いてもいない。

たった1人森の中で生活して寂しくはならないかと思うでしょうか?著者にとっては自然や動物が友達のようなもの、寂しさを感じた事は一時もないようです。

哲学者の三木清は「孤独は山になく街にある。1人の人間にあるのではなく、大勢の人間の「間」にある」と言う言葉を「人生論ノート」に綴っています(ガッツリ哲学書なので万人におすすめはしません)。

②「樹木たちの知られざる生活」ペーター・ヴォールレーベン

自身が読んだ版には「東大・京大で読まれている」帯がありました。森林管理官の著者が、自然の大切さ・貴重さを説いた名著。多くの人に読まれる事を願います。

顕著に分かるのは原生林と人工林の違い。街に植えられた木は、自然の木ほど強くない。

互いに競争関係にあるとされていた自然の植物は、最近では協調関係にある事が分かっています。自然の木々は、根や菌を通じて巨大なネットワークを構築しており、仲間の木が弱るとお互いに助け合う

自然から切り離された都会の木では、仲間の援助を受けられず、一度切断された複雑なネットワークは、決して元に戻る事はありません。

また、落葉から出た酸が川を伝って海に流れ、プランクトンの成長を促す。つまり森のおかげで魚が成長するという面白い日本の研究結果も紹介されています。

武士は雑草が好き、誰かに話したくなる植物雑学4冊

徳川家の家紋はなぜ三ッ葉葵なのか稲垣栄洋

稲垣栄洋氏といえば、他にも数多く植物本が出ています。どれも読みやすく、専門書と違って面白い植物ネタが数多く掲載されているのがおすすめの点です。

フランス王家はユリ、イギリス王家はバラなど、欧州では見た目に豪華な花が愛用されたのに対し、日本の戦国武将が家紋に愛用したのは道端の雑草であった!なんとも面白いではありませんか!

見た目の華やかさよりも素朴を愛し、刈っても刈っても生えてくる力強さに子孫繁栄の願いを込めた戦国武将たち。なんとも日本らしいエピソードが好きです。

徳川家は三つ葉葵、織田家は木瓜、豊臣の桐に、明智の桔梗などなど。坂本龍馬が作った海援隊の後進として発足した九十九商会は、岩崎弥太郎が買収して三菱商事の元となりましたが、三菱の現在の社章は、龍馬を含め彼ら土佐藩家紋である三つ柏がモデルになっています。

家紋に興味のある方はこちらのホームページ(刀剣ワールド)をご覧ください。

刀剣の専門サイト・バーチャル刀剣博物館「刀剣ワールド」

本書では他に、
痩せた土地でも育つ蕎麦が関東で人気になったこと、なぜ関東は濃口醤油関西は淡口醤油なのか。また、先端が斜めに切られた門松は、信玄との戦で敗れた家康が、武田家の首に見立てて切ったのが由来、などなどきっと誰かに話したくなる話が満載です。

印象的な話が「身近な雑草の愉快な生き方」にあります。


原子爆弾を落とされた広島で、真っ先に緑を取り戻したのがすぎな(つくし)。地中深く伸びていた根茎のおかげで、熱線を免れることができた。緑が戻るのに50年かかると言われた死の大地で芽吹いたスギナ、どれだけ人々の心を勇気づけたことだろう。

海外専門書3冊+α

植物雑学を数多く教えてくれる稲垣氏の本と違い、海外の専門書は1つのことを深く教えてくれます。どちらを選ぶかは、どの程度知りたいかによるでしょう。色々知りたい場合は、稲垣氏の本がおすすめです。

専門家でもないのに専門書に惹かれてしまうのは、装丁の豪華さもあるでしょうか・・最新研究が知りたいのは最もですが、何せ調べるには時間のかかる植物ですから、最新と言いつつ「実はまだ分かってない事の方が多い」事が読んだらよく分かる事の一つです。豊富な原註から研究データを辿りたい強者にはもってこいだと思われます。

何冊か読んできましたが、中でのおすすめはコレ。

①「菌類は世界を救う」マーリン・シェルドレイク

TIME誌2020年必読書100選にも選出されています。植物と菌類は別カテゴリーではありますが、共生関係にあるため、植物の事も大いに勉強になります。

1番驚いたのは、菌類に問題解決能力がある事。迷路を進ませれば最短距離で進む能力があるそうです(最初はあらゆる方向に分岐して伸びるも、最適解を見つけたら他の経路は引き上げる性質がある)。

これを都市部の輸送効率へ適用しようという取り組みもあり、バイオコンピューティング(粘菌コンピュータ)として注目を集めているらしい。鳥の翼を模して飛行機を作るなど、バイオメティクス(生物機能を科学分野へ応用する事)は昔から行われていますが、脳を持たない菌類でさえ、本当に賢いことに驚きます。

読んで好感をもったのは、情報だけでなく、どちらかというと著者の姿勢。「植物に知性はあるのか」というテーマは色々見かけますが、著者によれば「粘菌、菌類、植物が「知性を持つか」どうかは、その人の視点による」。まさにその通り!と思いました。彼らには彼らなりの知恵がある。

次の2冊は厳密にはおすすめしませんが、面白い所を紹介します。

②「マザー・ツリー」スザンヌ・シード

本書は著者の体験談、私たちの多くが知りたいと思う内容は「菌類は世界を救う」でも引用されています。この著者が凄いのは、これまで実験下でしか実証されていなかったことを、自然環境下で実証したこと。

内容を簡単に言ってしまえばこの一言に尽きますが、競争関係ではなく協調関係を実証した事は、業界にとってはコペルニクス的転回でもあり、なかなか受け入れられる事ではありませんでした。本書にはそんな苦労も描かれており、著者を主題に映画化も予定されているそうです。

また、映画「アバター」に登場した魂の木(植物同士を繋ぐネットワーク)は、著者の研究結果が元になっているそう。それだけ当時の業界を騒がせた事が伺えます。そしてこちらはTIME誌2021年必読書100選にランクイン。

「プランタ・サピエンス」パコ・カルボ、ナタリー・ローレンス

植物の知性について考えるのがテーマ。①で紹介したシェルドレイク以上に適当な言葉が見つからないので、個人的には新しい知見が得られた訳ではありませんでした。

なぜ紹介したいかと言いますと、この本に「タコはそれぞれの足に脳がある」というおどろきものの木!の文言が入っていたから。この一言がきっかけで、タコに興味が湧いてタコ好きになってしまいました。植物の収穫はなくとも、意外な収穫がある、これは読書の醍醐味でもあります。

タコには心臓が3つあって、水族館では飼育員の前で嫌いな食べ物を投げつけるタコもいるそうです。なんとお茶目で知能的!実験もよくこなす海の賢者タコの事がよく知れたのは「タコの心身問題」。これは間違いなく良書ですので、おすすめさせて下さい。

その他

最後にこんな本もあるよ、というのを3つ紹介して終わりに致します。

幸田親子

幸田親子とは、父幸田露伴と娘幸田文。露伴の代表作には、大好きな本の一つ「五重塔」があります。作中の五重塔は架空のものですが、谷中の天王寺五重塔がモデルのようです(圧倒的おすすめの1冊「古代日本の超技術」より)。

のっそりという不名誉なあだ名をつけられた大工・十兵衛が五重塔の建築に挑むお話。実際の法隆寺五重塔といい、本作の五重塔といい、仕事人の情熱と不器用さ、匠の完成度には惚れてまうやろーです。

幸田文に「」という作品があります。56歳から約13年かけて各地の木を巡ったエッセイで、短いけれど力強く素直な文章が魅力。「木に学べ」の西岡棟梁も登場、法隆寺昭和の大修理の際に幸田文と出会った事が知れました(羨ましいです)。

木の死んだの」と「死んだ木」のニュアンスの違いに触れていますが、あなたは感じられますか?

「庭仕事の真髄」スー・スチュワート・スミス

美しい装丁と帯に惹かれて買ってしまったものの、主題は植物ではなくヒトの心。菜園などが心理的に与える良い影響が中心。

気づけば、原題はThe well gardened mind(gardenは耕すという意味がありますので、畑を耕すのと心を耕すのをかけている、うまい)。それは良いとして、著者のプロフィールも精神科医・心理療法師。しばらく読み進めてからしまった!と思いましたが、時すでに遅し。

邦題では分からない事もあるので、買う前に原題と著者のプロフィールをチェックした方がいいですよ、という教訓と共に、興味深い話もありましたのでそれをシェアします(ちなみに本書は本棚の植物コーナーに立派に立てかけてあります)。


野の花の多くは5枚の花弁を持っており、花弁は虫を花の中央へ誘導する役割がある。

・3本の滑走路=6方向(非対称)
・4本の滑走路=4方向(十字)
・5本の滑走路=10方向(非対称)
・6本の滑走路=6方向

上手に伝わりますでしょうか?これが5枚が多い理由です。本当に自然の無駄のなさと賢さには脱帽です(分からなければ・・お手数ですが本を手に取ってみてください)。

「植物図鑑」有川浩

最後は癒され小説で終わりにしましょう。

青春時代はとうに終えている筆者にとっては、淡くて甘い、そして遠い物語ですが、ふとした時に読みたくもなるのですよね。作中に出てくる自然の食べ物が魅力的です。

長くなりましたが紹介は以上です。少しでも多くの方に植物の魅力が伝わり、好奇心が湧き、自然を大切にする心が磨かれば嬉しいです。

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