「百年の孤独」いつ読む、こう読む

ランキング

世界の終焉にリーチ

文庫化されたら世界が滅びると言われたガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」(上のリンクは単行本、文庫リンクは少し下に)。

世界が滅びるのと同じぐらい文庫化があり得ないという理解ですが、ついに運命の時を迎えたのは2024年夏。有難いことに世界は終わらずに、トレンド入りなどで盛り上がりましたね。同じく世界が滅びる本にウンベルト・エーコ「薔薇の名前」がありますので、とりあえずリーチと言っておきましょう。

「百年の孤独」は当ブログの名作リストに何度か登場していて、ずっと気になっていた作品。文庫化が報じられる前に、本屋で一度ハードカバーを手に取ったことがありますが、そのままそっと棚に戻しました。

(世界が滅びるとはつゆ知らず)文庫になったら必ず買おうと心に決めて。

音楽と文学は色ガラスというYouTubeを作られるのはアサヒ氏。本業は音楽の方と思いますが、書評がとても勉強になるので、最近気に入って見ています。アサヒ氏曰く“「百年の孤独」は読まなくて良い“と。その動画を上げられた、まさにその日に、自分は読み終えたのでした。

読まなくて良いとおっしゃるのは、「話題になった」という理由で「今すぐ」読まなくても良い、というぐらいの意味。読みたい人は読んだら良いのです。

読機」という言葉を本動画で初めて聞きました。松岡正剛氏の言葉らしいのですが、まさにその通り。人によって読みたい時期や巡り合わせは異なるので、読みたくなったら読みましょう。ということ。

「百年の孤独」は手軽に読める本ではないー(これが読機を推す理由)

似たような名前の人物が何人も出てきて話がゴチャゴチャになりやすい。ですが、似たような名前というのがまさにタイトル、年7世代にわたる一族の物語を表していて、人物の整理がつけられないと物語が分からない。挫折してしまいがちな本。

文庫には家系図がついていますが、見た瞬間に「げっ」となる。

家系図は確認しつつも、自分なりにアルカディオ5人にa、b、c、d、eアウレリャノ5人にp、q、r、s、tを付けて区別してました。

人物が複雑に絡み合う、しかも不思議な世界(後述)の物語。とはいえ、のみ込め出したら止まらない。世界が終わるとまで言われた超大作。読機が巡ってきたならば、苦労覚悟で挑戦してみてもいいのではないでしょうか。必ずや世界が広がると思います。

魔術的リアリズム

魔術的リアリズム又はマジック・リアリズムという言葉をご存知でしょうか。自身は読了後に読んだ解説で初めて知ったわけですが、現実と超現実の境が曖昧な不思議な世界を指し、ガルシア=マルケスの出身コロンビア、ラテンアメリカ文学に現れた特徴の一つとされるようです。

最初は「ん?」がたくさん出てきて戸惑いました。読み進める内に“こういう世界”と段々慣れてはいきましたが、解説でこれが醍醐味だと分かり、空中浮揚や昇天72個のおまるにようやく納得がいきました。

幽霊が普通にいる世界では、その人が生きているのかシんでしまったのか、果たしてどっちなんだ?と迷うこともありますが、あれこれ思いを巡らすのも楽しいではありませんか!

日本で影響を受けた人物に、最近人気の安部工房、ノーベル文学賞作家の大江健三郎、文庫版に解説を寄せている筒井康隆氏などが挙げられるようです。

ガブリエル・ガルシア=マルケスはこのマジック・リアリズムの功績で1982年にノーベル文学賞を受賞しました。「百年の孤独」はその代表作であり、ラテンアメリカ文学を世界文学へ押し上げました。

自身の読書を振り返れば、初読は物語についていくのに必死。醍醐味マジック・リアリズムにはそこまで意識がいかず、ただなんとなく印象的なシーンというぐらい。読み終わって初めてその価値を知ったので、再読した時にこそより楽しめるだろうと思っています。

これから読もうという方には、不思議な世界に理性を引っ張られずに、純粋に不思議な世界を味わう・楽しんで欲しいと思います。

私的読み方

ここまで「百年の孤独」は手軽に読める本ではない、人物が複雑、醍醐味のマジック・リアリズムを楽しみきれなかったなど、どちらかというとマイナス面の強調だったように思いますが、最後まで読めたのはやはり読むのが楽しかったから。

多くの出来事が紡がれていくので、何がどうなる?を追うのは楽しい。紡がれる糸が多いだけに、人によって拾う箇所はおそらく様々、感想もその人なりだろうと思います。以下、自分が興味を覚えたポイントを3つご紹介します。

①円環

登場人物の名前が似たり寄ったり(5人のアルカディオとアウレリャノ)なのが、難しさの一つではありますが、これはまた、一族に脈々と受け継がれる一族の特徴を表してもいます。全7世代の物語で、第1世代の特徴を第2世代に発見したり、それをまた第3世代に見出したり。

途中で双子が登場しますが、入れ替わっているのでは?疑惑が出てくると、これはアルカディオ系列だとか、いやアウレリャノ系列だ、などど勝手にやれるのも楽しみの一つになりました。

時間はぐるぐる回る「一家は永遠に回転し続ける車輪」という表現が出てきます。自分が円環小説が好きなせいか、ボルヘスやプルーストも好きなんですよね。「百年の孤独」にも円環味を感じた訳です。

プルースト「失われた時を求めて」はこちらで記事にもしていますので、ご参考くださいませ。

②戦争

腕白な下半身の描写で始まったと思えば、話は途中から内戦に突入します。自由派と保守派の対立、バナナ農園での争闘などは、史実に基づく出来事。マジック・リアリズムだけでなく、戦争が陽気な一家にもたらした陰惨な雰囲気も、この物語からは外せない要素だと思います。

自由党(革命側)を率いるアウレリャノの次のセリフ。

堂々巡りの戦いに飽いていた。戦う理由も、手段も、それが終わる時期も、ますますわからなくなる。

決起当初は熱い志で戦いを始めたとしても、戦いが長引くにつれて、言いようのない虚無感に襲われることは・・あるのだろう、きっと。体験したことのない身では想像することしかできませんが、現在の世界情勢を見ると染みてくるものがあります。

③イグアナと四神天地書

最後は何のことやらと思われるかもしれません。イグアナも四神天地書も、とある別作品を思い出してしまいました。同じ方は?という期待を込めてシェアします。

とても元気な下半身は大変結構なのですが、近い血縁で子供が生まれてしまいます。もちろん忌避される行為として描かれますが、“生まれた子供はイグアナのよう”。ん?イグアナ!

すぐ出てきたのは「イグアナの娘」。原作は漫画ですが、1996年に菅野美穂さん主演でドラマ化されました。醜い娘の象徴がイグアナという衝撃の強い作品ですが、イグアナは見ようによっては可愛い・・と個人的には思っており、「イグアナ=醜い」というまさかのイコールに驚いてしまいました。

四神天地書はもっとマニアックかもしれませんが、ラストを読んだ時に1番に浮かんだ言葉。細かく言えば色々違いますが、四神天地書を知っている人に「百年の孤独」の要所を1番簡潔に説明できると、思っています。

大枠の大枠でそうだったのか!とマジック・リアリズムにも納得できた訳です(分かる人にだけ分かるように、ネタバレを避けています。分かりにくい部分はご容赦ください)。

ちなみに四神天地書が出てくるのはこちらの漫画。

孤独はどこにあったのか

読了後に最初に思った事が「孤独はどこにあったのか」でした。

最後の世代は確かに「孤独」そのものですが、最後の世代だけを指して「百年の孤独」とは言わないだろうと思います。また、所々「孤独」を感じさせる描写も見つけられましたが、最後の世代にしても、各登場人物にしてもそれなりに幸せ・楽しみがあるとも感じました。

ただこの一家は、幸せ・楽しみが極端で、何かに夢中になる熱量が半端ないです。それが顕著に現れる世代は特に、その反動として沈みやすい傾向にもあります。沈んだ時を指して、それぞれ「孤独」があると言えばある。

熱した鉄もいつかは冷める。その両極があるのも一家の特徴かもしれません。これは読了後に思い返して至った事なので、再読でしか各世代の浮き沈みを確かめることはできませんが。

それよりも、自分的には「百年の孤独」というほどの「孤独」には、先に触れた円環要素が絡んでいるように思えてなりません。

どこにも出口がなく、ひたすら前と同じ現象が繰り返される。ここに「孤独」の意味があるとしたら、なんという秀逸なタイトルか、と一人納得しました。

BookTube〜本好き1000人に聞いた「1番好きな小説」

さて、「百年の孤独」が気になるきっかけになったとも言える素敵なBookTubeをご紹介しましょう。

* e m m i e *さん「I asked 1,000 people what their favourite book is 👀here are the top 20 novels!」(1000人に聞いた大好きな本、トップ20の小説)。

何位にランクインしているか?もですが、英語版の表紙が素敵なのも印象的でした。お時間ある方はぜひ動画もご覧ください(下方のリンクしています)。

総勢1268名が参加したという独自調査に基づいたランキングで、お決まりのランキングとは違う味があって面白いです。いずれも名作揃い!個人的にはいつか制覇したいと思うリストです。

あなたのお気に入りを探してみてください✨

20位
ベル・ジャー、シルヴィア・プラス
The Bell Jar by Sylvia Plath
*11人が投票

19位
ノルウェーの森、村上春樹
Norwegian Wood by Haruki Murakami
*11人

18位
君の名前で僕を呼んで、アンドレ・アシマン
Call Me By Your Name by André Aciman
*11人

17位
夜のサーカス、エリン・モーゲンスターン
The Night Circus by Erin Morgenstern
*12人

16位
グレート・ギャッツビー、F・スコット・ジェラルド
The Great Gatsby by F. Scott Fitzgerald
*12人
*動画作成者の高校で必読書

15位 
レベッカ、ダフニ・デュ・モーリエ
Rebecca by Daphne du Maurier
*13人
*同名の映画あり

14位 
罪と罰、ドストエフスキー
Crime and Punishment by Fyodor Dostoevsky
*14人

13位 
1984、ジョージ・オーウェル
1984 by George Orwell
*14人

12位
百年の孤独、ガブリエル・ガルシア=マルケス
One Hundred Years of Solitude by Gabriel Garcia Marquez
*14人
*動画作成者の1位(とんでもない読書体験)、16:05あたり
*冒頭、物語はこんな風に始まります

長い歳月が流れて銃殺隊の前に立つはめになったとき、恐らくアウレリャノ・ブエンディア大佐は、父親のお供をして初めて氷というものを見たあの遠い日の午後を思いだしたにちがいない。

11位
若草物語、ルイーザ・メイ・オルコット
Little Women by Louisa May Alcott
*18人

10位
アキレウスの歌、マデリン・ミラー
The Song of Achilles by Madeline Miller
*19人

9位
ジェーン・エア、シャーロット・ブロンテ
Jane Eyre by Charlotte Brontë
*25人

8位
本泥棒、マークース・ズーサック 
The Book Thief by Markus Zusak
*25人

7位
フランケンシュタイン、メアリー・シェリー
Frankenstein by Mary Shelley
*27人

6位
黙約、ドナ・タート 
The Secret History by Donna Tartt
*投票数不明

5位
未邦訳、ハニヤ・ヤナギハラ
A Little Life by Hanya Yanagihara
*30人

4位
嵐が丘、エミリー・ブロンテ
Wuthering Heights by Emily Brontë
*31人

3位
ハリー・ポッター(シリーズ)、J.Kローリング
Harry Potter series by J.K. Rowling
*41人

2位
高慢と偏見、ジェーン・オースティン
Pride and Prejudice by Jane Austen
*43人

1位
ドリアングレイの肖像、オスカー・ワイルド
The Picture of Dorian Gray by Oscar Wild
*51人
*The most beautiful writing(美しい文章)

タイトルとURLをコピーしました