【1部】苦手意識を払拭するには
本が苦手だった時期、どうしても1冊を通読することができませんでした。世の中の「賢く読書好きな人」を羨んだり、どうしたら読めるようになるのかと不思議に思ったりしていました。
この記事は、読書に苦手意識を持つ全ての人に捧げるものです。
1部は、これから読書を始めたい人に向けた、苦手意識の克服の仕方。2部は、本好きな人も含めたあらゆる人に「本のための本」を取り上げる2部構成になっています。
「本のための本」というジャンル。どのように本を読んだら良いのか、よりよく読むためのヒントやテクニックが詰まっていたり、おすすめ本がたくさん紹介されていたり。本が気になる人は、1冊は手に取ったことがあるのではないでしょうか。
何かコツがあるに違いないと、色々調べた時期がありましたが、当時は決まって、本好きな人との差を感じて惨めになる、劣等感を感じる、というお決まりのパターンでした。
今やすっかり本が好きになり、このブログを運営するに至った訳ですが、当サイトはどちらかというと本が好きな人、人の本棚を覗くのが好きな人に向けた記事が多いかもしれません。
今回は初心に帰って、すでに本好きな人だけでなく、これから本を読み始めたい人へのメッセージを含めた内容になっています。
子供の頃から本に囲まれて育つというような環境でもなかった自分は、全く本が読めませんでした。学生のある時期や、社会人なりたての頃などに何度か、本を読んでいないとダメな気がする、という謎の強迫観念に襲われたりもしていました。
その時々で本を読もうと思い立つも、なかなか1冊が読みきれずに悶々とする状態。書いてあることが分からない、言葉を知らない、集中力が続かないなどで読書は中断。やっぱり自分はダメなんだと、完璧な負のループの中にいたわけです。
そんなループを抜け出したきっかけは、ついに1冊を通読した事。
今思えば「本を読まなければいけない、読めるようになりたい」と、読書初心者が最初から古典・名作を読もうと背伸びしすぎた事が通読できない原因だったように思います。
やっと興味を持って読めた1冊とは、古典でも名作でもなく、何となく気になっただけの心理学に関するハウツー本でした(今で言えば軽めのビジネス本)。たった1冊でしたが「ついに本を読めた!」という自信に繋がったのを覚えています。
「1冊読む必要はない」とよく聞きもしますが、これは読書量が多い人が言うこと。読書に苦手意識がある人や、1冊読みきれない人は、とにかく「最初の1冊」という実績を作るところから始めるのが良いと思います。ではどういう本なら読み切れるのか。
これから紹介する「本のための本」には、おすすめ本が何冊も登場しますが、これらの本は、相当の読書家がおすすめする本である事を忘れてはなりません。
古典や名作はおすすめに違いないのですが、過去の自分と同じように古典が読みきれない人は、興味のある最初の1冊(何でも良い)に出会うまで探し続けることが、挫折しない最初の“コツ”です。
古典を読んでいると、さらに前の古典、その前の古典と、紀元前まで遡って引用される事も多く、この引用の多さが何たって苦痛の種、負のループへの入り口。逆に古典に親しんでこれば、引用が分かることが教養の裏付けにもなってきます。
これから読書を始めたい方は、いきなり古典ではなく限りなく身近な本から始める事を、強くおすすめします。「(軽めの)ビジネス本」「冒険」「最近の作家」は初めの一歩にちょうど良いかも?
本を読めるようになりたいという方に「この1冊が良い」というおすすめ本は、私にはありません。家庭環境(読書環境)、興味の分野、語彙力など人は千差万別、特定の1冊を万人にはおすすめできません。
「読書筋力」という言葉で上手に説明しているのはゆる言語ラジオの水野さん(7:26あたり)。良い言葉だと思います。
本を読むコツ
・いかに速く読めるか、速読術を学びたい
・読んだら忘れない読書術が知りたい
本を読むのにコツがあるはずと思っていた頃によく探していた術です。結論から言えば、コツよりも1冊の通読実績、そしてその後の読書量が何よりもものをいう、と今では思っています。
なぜなら、残念ながらそんな術はないからです。テクニックとして多少存在するかもしれませんが、微々たるものでしかなく、結局は読書量、それには最初の1冊、とこれに戻ってきます。なぜか。
いかに速く読めるかは、いかに知っているかによります。
自分が知っている分野のことはそれなりに速く読み進められますが、初めて出会う理論や言葉や言い回し、これを腹に落とすには時間がかかります。読書量が増えれば、自然と速さはついてきます。
いかに忘れないか、いいえ人は読んだら忘れます。
忘れていても、のちに別の本で同じ理論や言葉や言い回しに出会ったとします。忘れたと思っていても、以前に読んだことがあるのが思い出されて、出会った回数分、記憶が強化されます。読書量が増えれば記憶にも定着します。
コツより量、速読や記憶定着を目指すのであれば、質より量がものをいうように思います。読めば読むほど読み方が分かってくる。スピードも理解力も人それぞれ。
万人におすすめの1冊がないように、おすすめのコツも残念ながらないんですよね。量をこなすうちに、自分に合った読み方のスタイルが見つかり、これがその人にとっての“コツになる”。
とはいえ、何を読んだら良いか迷う方に「本のための本」をご紹介しておきます。個人的には、後に触れる近藤康太郎氏「百冊で耕す」を推しています。軽めの?ビジネス本と言えばそうですし、次のことを教えてくれたのも本書でした。
社会科学系は古い本から、文学は新しい本から読む
「文学は新しい本から」というのがまさに自身が味わった古典の教訓。もっと早く知りたかった・・これから本を読もうという方が、同じ苦痛を感じなくて良いように金言として残します。“読書筋力”にもよりますが、慣れない内は、わかりやすいものから始めていきましょ。
「本のための本」ご紹介
・百冊で耕す(近藤康太郎)
・忘れる読書(落合陽一)
・読書について(ショーペンハウアー)
・死ぬほど読書(丹羽宇一郎)
・読書力(齋藤孝)
・読書の技法(佐藤優)
・立花隆の書棚(立花隆)
【2部】「百冊で耕す」に光るもの
内容は後ほど触れるとして、まずは本書に惚れた理由から。
比較的最近読んだ事もあり「うんうん、そうそう」と納得できるものが多く、学びとしては少なかったのですが、先に紹介した「文学は新しい方から」が金言であると後に分かった事と共に、こちらのおすすめ本がとにかく刺さりました。
やはり名作・古典揃い。この辺りは言ってしまえば、他の本でも見かける作品がほとんどですが、あらゆる古典の中で目を引いた異色作。
前回「1000人に聞いた1番大好きな本トップ20」(BookTube)をご紹介していますが、いざ自分の1番のお気に入りを考えると、かなり難しい。トップ10を出す方が易しいとさえ思います。
あえていうならば・・と絞り込んで出したのがその異作。こんな小説が存在したのかと、度肝を抜かれた超大作。それは。
色々とリストを見てきましたが、本書が入っているのは珍しくもあり、嬉しくもある。作品の性質上、断っておきたいのですが、好みとしては文豪夏目漱石や三島由紀夫、それこそ先のBookTubeトップ20に挙げられる作品群なのです。
「ドグラ・マグラ」は次で紹介しますが、ミステリーでもあるので、はっきり言ってグロい場面も出てきます。そういう部分は実際「おえぇ」なのですが、それでも尚、インパクトが凄すぎて、1位を選べと言われたら、私は本作を選びそうな気がします・・。
好きよりかは圧倒的・・これを超えるものを知らないとでも言いましょうか。楽しかった、刺激されたという満足感よりも、何か巨大な未知のものに恐れ慄く感覚に近いかもしれません。
三大奇書「ドグラ・マグラ」
「これを読むものは一度は精神に異常をきたすと伝えられる」
有名な帯の一部、日本3大奇書の一角。
読むだけで精神に異常をきたすのに、人にこれを勧める、あるいは1番の本です!とか言ってしまう辺り、だいぶ狂人な気がしますので、先ほどから「1番ではあっても好きではありません」と言い訳している次第です。
私の精神は普通です(だと思っています)が、以前紹介してもいる読書家アサヒさんは、高校生の時に読んで気が狂ったとおっしゃっていました。“論理を超えた展開、体中からアドレリナリン、失神しそうになった”本。
奇書というよりも昭和の大天才による極上ミステリー、腸が七転しても分からない禅問答と似ているかもしれません。話が二転三転してくると、何が何だか分からなくなるという特徴があります。
精神病院で目覚めた主人公ー段々と真実に迫っていくストーリーですが、主人公が犯罪を犯したのか、そうでないのか、読者はかなり苦しみます・・。
そうなのかそうでないかで悶絶する本に、ヘンリー・ジェイムズ「ねじの回転」もあります。こちらにも「転」が使われている所が面白いですが、こちらはゴシックホラー的名著。議論百出の書と言われ、何通りにも解釈できることに一般読者は苦しめられます。
(当方の苦しみを知りたい方はnote記事をご参考くださいませ)
もちろん「ドグラ・マグラ」は「ねじの回転」を超えてきます。「転」じすぎて一体何のことやら分からなくなります。これは挑戦のしがいしかありませんね!
有名な巻頭歌と冒頭だけご紹介します。
巻頭歌
胎児よ
胎児よ
何故踊る
母親の心がわかって
おそろしいのか
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
はい。最初から普通でない雰囲気にゾクゾク。
青空文庫でも読めますよ。
(https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/files/2093_28841.html)
「胎児の夢」という巻頭歌で始まり、名探偵アンポンタン・ポカンが登場する脳髄探偵小説、脳髄局ポカン式反射交換事務の加入規約や狂人解放治療が出てくるお話です。
のめり込み度MAX
何が真実か分からなくなる
こんなに「え!」を言った作品は初めて
無垢なXXとみせかけて、全てはXXの仕業
全ての辻褄が合う…完璧な伏線回収
恐るべし…
自身の初読メモ。何やら分かったように書いていて、今見るとよく分かりませんので(笑)、再読したくなってしまいました。もう少し知りたい方は次に紹介するBookTubeをご参考ください✨
BookTube〜ドグラ・マグラ〜
奇書ドグラ・マグラを紹介するBookTube3選です。何も知らずに読みたい方はもちろん見ないでください!一応この順で見るのがおすすめですが「ドグラ・マグラ」という奇妙な本があることを最初に教えてくれたのは、きっとみんな大好き本タメでした。
①「変な本大賞」決定会議
②音楽と文学は色ガラス(アサヒさん)
③本タメ
本書ご紹介
前置きが長くなりましたが、本書の内容に少しも触れない訳にいきません。要所だけになりますがご紹介いたします。
「百冊で耕す」とは、百冊読めば(脳が)耕されて賢くなるのでしょうか。
ーいいえ、そうではありませんー
何冊も読んだうちから至極の百冊を作っていこうという意味です。ここまで読んでくださった方にはお察しかもしれませんが、読書にコツや近道を期待してはならない、量の世界がものをいうと、ここでも教えられるのです。
脳は耕されたのか、自分は賢くなったのか、読解力はついたか、言葉は覚えたのか、これらは振り返って初めて分かること。なぜなら読書は確かに脳を変えますが、その変化は無意識に起こるからです。
読書する意味はあるのか?と思っている方がみえるかもしれません。気づかないだけで、確実に意味はあるのだと、昨今の研究は言っています。
面白いタイトルのこちらの本は、読む人と読まない人では活性化する脳の領域が違うことを教えてくれます。ディスレクシア(読字障害)研究者による専門書のため、簡単な内容ではありませんが、詳しく知りたい方はお手にどうぞ。
さて、本書で自分が拾った「100冊の本棚」という言葉。
これまで読んだ本は全部棚にしまって(or床に積む)いましたが、これを読んで一大決心。残す本(棚に入れる本)と、サヨナラする本(セカンドハンドへ)を分け始めました。
本が増えるたびに家を増築する、そんな夢の暮らしができれば最高ですが、現実はなかなかそうはいきません。思い切りが大事(と自分に言い聞かせます)。
自身はまだ100冊を作っている途中です。いつか本当に好きな本だけの棚ができたら最高か。
本棚 スライド ウォールナット
おすすめ本リスト
最後に「百冊で耕す」で紹介されているおすすめ本の1部をご紹介します(「 」内は著者コメントの一部)。全部知りたい方はぜひ読んでみてください✨。自身はこちらのリストのコンプリートを目指したい。
さらには、これら以外にモーム「世界の十大小説」などの必読リストも載っていて、ただでさえ増え続ける積読が、さらに増え続けるのは必至の良書でございます。
海外文学
・ドン・キホーテ(セルバンテス)
・マクベス(シェイクスピア)
「4大悲劇は全部読んでヨシ」
・嵐が丘(エミリー・ブロンテ)
・デイヴィッド・コパフィールド(チャールズ・ディケンズ)
・灯台へ(ヴァージニア・ウルフ)
最近文庫化で話題
・ゴリオ爺さん(バルザック)
「スタンダール『赤と黒』もおすすめ」
・ボヴァリー夫人(フローベール)
・レ・ミゼラブル(ユゴー)
・ジャン・クリストフ(ロマン・ロラン)
・ペスト(カミュ)
・夜の果てへの旅(セリーヌ)
・ファウスト(ゲーテ)
・黄金の壺(ホフマン)
・魔の山(トーマス・マン)
・審判(カフカ)
・大尉の娘(プーシキン)
・鼻/外套/査察官(ゴーゴリ)
・悪霊(ドストエフスキー)
「長編5作はどれを読んでもヨシ」
他に「罪と罰」「白痴」「未成年」「カラマーゾフの兄弟」
・コサック(トルストイ)
「『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』は言わずもがな。短くて読みやすいのがおすすめ理由」
・ワーニャ伯父さん(チェーホフ)
・書記バートルビー(メルヴィル)
「『白鯨』で挫折するくらいならこれを」
・ハックルベリー・フィンの冒険(マーク・トウェイン)
・武器よさらば(ヘミングウェイ)
・怒りの葡萄(スタインベック)
・キャッチャー・イン・ザ・ライ(J・D・サリンジャー)
・デカメロン(ボッカッチョ)
・供述によるとペレイラは(タブッキ)
・トランス=アトランティック(ゴンブローヴィッチ)
・雪(パムク)
・ガルシア=マルケス中短編傑作選(G・G・マルケス)
「『百年の孤独』への準備として」
日本文学
・平家物語
・森鴎外全集
・夜叉ヶ池・天守物語(泉鏡花)
・にごりえ・たけくらべ(樋口一葉)
・蒲団・一兵卒(田山花袋)
・それから(夏目漱石)
「全部読んでヨシ、読み慣れない人は『坊っちゃん』の次にこちらがおすすめ」
・羅生門・鼻・芋粥・偸盗(芥川龍之介)
・李陵・山月記(中島敦)
・或る女(有島武郎)
・小僧の神様(志賀直哉)
・冥土・旅順入城式(内田百閒)
・宮沢賢治童話集
・伊豆の踊り子(川端康成)
・機械・春は馬車に乗って(横光利一)
・春琴抄(谷崎潤一郎)
・ドグラ・マグラ(夢野久作)
・村の家・おじさんの話・歌のわかれ(中野重治)
・お伽草子(太宰治)
「笑える太宰はもっと良い」
・堕落論・日本文化私観(坂口安吾)
・野火(大岡昇平)
・富士(武田泰淳)
・死霊(埴谷雄高)
・仮面の告白(三島由紀夫)
・あしたのジョー(ちばてつや)
・神聖喜劇(大西巨人)
・諫早菖蒲日記(野呂邦暢)
・万延元年のフットボール(大江健三郎)
「ハマると癖になる文体No1」
・風の歌を聴け(村上春樹)
・噂の娘(金井美恵子)
・アムリタ(吉本ばなな)
その他(1部のみご紹介)
・ソクラテスの弁明(プラトン)
・詩学(アリストテレス)
・レオナルド・ダ・ヴィンチの手記(ダ・ヴィンチ)
・君主論(マキャベリ)
・方法序説(デカルト)
・ツァラトゥストラかく語りき(ニーチェ)
・プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(マックス・ヴェーバー)
・幸福論(アラン)
・全体主義の起源(ハンナ・アーレント)
・生物から見た世界(J・V・ユクスキュル/クリサート)
・「いき」の構造(九鬼周造)
・遠野物語(柳田国男)